2009年8月16日日曜日

新田次郎著「アラスカ物語」


偶然手に取った新田次郎著「アラスカ物語」を読んだ。
「孤高の人」を読んで、それが面白くて、この作家のほかの作品を読んでみようと思い、手にした作品。
この作品を読んで、私の全く知らなかった「フランク安田」という人物の存在とその人が生み出した価値を知った。そしてそれが未だにほとんどの日本人に認知されていない。
彼が、アラスカで残したもの、それを挙げると、
  • アラスカエスキモーに溶け込み、アラスカエスキモーの鯨組(鯨を狩るグループ)の長になることを嘱望されるほどに狩猟の腕をあげ、そして信頼を得た。
  • エスキモーの飢餓を救うために、沿岸エスキモーの内陸への移住と、移住に欠かせない、エスキモーの生活習慣の変革まで成し遂げた。
  • 上記の飢餓救済の手段として、金鉱を探し当て、それで得た金を元手に移住を行った。
  • エスキモーの娘ネビロと結婚し、子供を育てた。

他にもたくさんあるが、やり遂げたことが余りに多すぎてここで、全てを列挙することができない。
この作品を読んで感じたことを列挙すると
  • この人が、たとえばゴールドラッシュで金を探すと決断したときに、どれほど悩んだだろうか。信用できるかわからない雇い主の白人と、その間で交わされた契約書を拠り所に、エスキモーの飢餓を救わねばならないという信念の元に行動する勇気は本当にすごいと思う。
  • この人の生涯の密度の濃さに坂本竜馬を思い起こしてしまうのは僕だけだろうか。坂本竜馬も司馬遼太郎に取り上げられるまで、「忘れた存在だった」という。司馬遼太郎が坂本竜馬に光を再び与えたように、この新田次郎の「アラスカ物語」はフランク安田に光を与える作品だ。
  • 新田次郎の作品に特徴的なのが(まだ、孤高の人とアラスカ物語しか読んでいないが・・・)、妻と夫の絆の深さを精彩に描写しているところだ。山岳を含む「極地」を題材にし続けた新田次郎が、描き出したかったのはこの「ザイル(絆)」の大切さなのかもしれない。
  • 最後に忘れてはいけない事は、ジェームス・ミナノ、ジョージ大島など他の日本人の存在であり、特にジョージ・大島は、対立するインディアンとエスキモーの仲立ちに貢献し、エスキモーの内陸への移住のキーパーソンとなった。